求人募集要項を作る際にも覚えておきたい
「仕事をデザインする」とは?
従業員の定着や、成功する採用には、「仕事をデザインする」ことが重要な要素なのですが、実は、この概念はあまり注目されていません。「仕事をデザインする」とは、組織としての目標をサポートしつつ、従業員にとって満足感が高く、やりがいがあるタスクや責任を、創造・設計することです。
実際にその仕事に関わる人々のことを考慮し、彼らに役立つように仕事を設計することが重要で、これは、従業員の満足度、エンゲージメント、定着において大きな効果をもたらします。特定のポジションの人材の獲得が難しい、または特定の部門で従業員の定着が困難な場合は、その原因は、そのポジションの「デザイン」に起因しているかもしれません。
「もし、従業員のモチベーションとエンゲージメントを高めたければ、なぜ、その仕事自体を最大限に魅力的にする努力をしないのでしょうか?」と、ビジネス・コンサルティングサービスを提供するOE Camのプリンシパル・コンサルタント、マイク・タックレイは、『People Management』に寄稿した最新の記事の中で問題提起をしています。「仕事をデザインする(仕事の要素を少し調整する)だけで、チームのエンゲージメントと満足度に大きな違いを生むことができます。」と示しています。仕事をデザインする方法について学び、それが従業員とビジネスの成果に与える影響を理解すれば、タックレイのコメントは実に納得のいくものとなります。
仕事のデザインで意識すべき
4つの要素を解説
「仕事のデザイン」は、タスク、モチベーション、リソースの配分、報酬という4つの要素で構成されています。簡単に言えば、何をすべきか、誰がそれを行うか、どのように行動を促すか、そしてその行動に対して何を報酬として与えるかということです。
1.タスク:与えられた時間内に実行できると定義された作業です。良い仕事のデザインは、重要なタスクを明確にし、それに必要な時間枠を設定することから始まります。
2.モチベーション:従業員一人一人が仕事を楽しみ、情熱を持って取り組めるよう、管理職は、従業員の士気を上げるように仕事をデザインする必要があります。タスクの完了だけでなく、それに必要な努力ができるモチベーションを維持するように働きかけることが重要です。
3.リソースの配分:組織のリソースを必要な時に効率的に使用できる環境を作ることは、目標達成に不可欠です。
4.報酬:仕事のデザインにおいて極めて重要な役割を果たすもので、給与やボーナスだけでなく、福利厚生などのその他の報酬や、仕事の安定性も含まれます。
仕事のデザインする上で重要となる
役割の5つの特性
前出の4つの要素に加えて、仕事のデザインには、下記の5つの特性も重要だと言われています。スキル多様性(Skill Variety)、タスク完結性(Task identity)、タスク重要性(Task siginificance)、自律性(Autonomy)、フィードバック(Feedback)この5つの特性は、1970年代半ばに心理学者J・リチャード・ハックマンと経営学者グレッグ・R・オルダムらが、「仕事の特性」が人の「やる気」に関係すると考え、その研究を「職務特性理論(Job Characteristics Theory)」として理論化したなかで発見されました。
仕事の特性に注意を払いつつ、従業員の経験値の変化や、彼らからのフィードバックに耳を傾けて仕事内容を調整することによって、リーダーは常に、仕事をより魅力的に保つことができます。
1.スキル多様性(Skill variety):単純で単調な作業を反復的に担う場合、その役割は面白みに欠け、仕事への意欲を低下させます。個人の持つ能力を発揮できる役割を持つことがモチベーションに繋がります。
2.タスク完結性(Task identity):タスクの大小に関わらず、自分が企画したプロジェクトに最初から最後まで関わり、その成果や意義をを感じられること。
3.タスク重要性(Task significance):タスクが会社や顧客に与える影響を考えたとき、自分が重要な役割を担い、貢献していると思えること。また、タスクの大小に関わらず、周りからもそう思われていると感じられること。
4.自律性(Autonomy):任せられた仕事を自分の裁量で進められること。作業や作業方法などを厳しく監視または管理されている場合、モチベーションは低下します。
5.フィードバック(Feedback):一般的な他者からの評価もさることながら、従業員が自身のパフォーマンスについてどれほどの洞察を持てているかも大切な要素です。
これらの特性を、すべての仕事に含めるのは難しいですが、理想は、従業員が経験が特性に反映されていくことです。例えば、エントリーレベルの従業員の役割は、タスク重要性と自律性が低い傾向がありますが、従業員の経験に応じて、仕事の持つ特性も変化していく必要があります。経験豊富な従業員が、スキル多様性、自律性、タスク重要性が低い仕事をさせられ続ければ、彼らは士気を失い、パフォーマンスは低下し、組織を離れる可能性が高くなります。
仕事の特性が与える
従業員への心理的影響
上記の5つの特性で高得点を得た仕事は、士気の向上、モチベーションの向上、仕事の質、仕事への満足度といったポジティブな変化をもたらす可能性が高くなります。それに比例して、これらの仕事は従業員の定着を改善させ、欠勤を減少させます。
仕事の特性が従業員に与える影響をより深く理解するためには、仕事の特性から生じる3つの「重要な心理的状態」を理解することが大切です。
1.仕事への有意味感(Meaningfulness of the Work):意味のある仕事、価値のある仕事をしている、と従業員が感じ、自らの価値を他者や外部環境に示す度合い。
2.仕事の成果への責任感(Responsibility for Outcome of the Work):従業員が、自らの仕事の成果や結果に責任を感じる度合い。
3.成果への知識(Knowledge of Results of the Work Activities):従業員が自らの仕事の成果がどの程度であるかを把握している度合い。
職務特性理論(Job Characteristics Theory)の研究者たちは、従業員の心理的状態により大きな影響を与える2つの特性は、「自律性」と「フィードバック」であることを示しました。これらの要因のいずれか、または両方が不整合である場合、パフォーマンスの低下や従業員の離職といったネガティブな結果をもたらす可能性が高まります。適切なタイミングで仕事の役割や報酬を調整することが、従業員のモチベーションや成長、満足度の向上につながり、長期的な定着を促進できるという理論を用いて、今一度、新規求人の募集要項や、既存の従業員の仕事内容を見直してみるのもいいかもしれません。
参考記事:
Engagement Multiplier『How to Create Jobs People Will Love: An Intro to Job Design 』https://www.engagementmultiplier.com/resources/create-jobs-people-will-love-intro-to-job-design/
執筆者:
Chihiro Bjork
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