正規労働者の約半数が
生活賃金を得られていない状況に
最新のデータによると、米国の正規労働者の約半数が生活賃金(Living Wage ※1)を得られておらず、生活費の確保に苦慮している状況が明らかになりました。
米国の労働者が生活賃金を得ることを目指し、調査や分析を行うリビング・ウェージ研究所(Living Wage Institute)と、人事系ソフトウェア・サービスなどを提供するDayforceが共同でデータを分析、開発した、『Dayforce生活賃金指数 (Dayforce Living Wage Index)』によると、米国内の正規労働者の44%は、基本的なニーズを満たすのに十分な収入を得られていないことが判明しました。この報告書は、約60万人の正規労働者の非特定化された記録と、マサチューセッツ工科大学の生活賃金計算機を用いて分析したものです。
リビング・ウェージ研究所の共同創設者兼最高製品責任者であるカヴヤ・バグル氏は、これらの結果を「衝撃的」とし、雇用主は賃金を見直す必要があると指摘しています。数年にわたる大幅な賃上げトレンドが去った後、従業員は経済的に圧迫され続けているにも関わらず、昇給はスローダウンしているのが現状です。
「労働者が基本的なニーズを満たせない場合、プライベートと仕事の成果の両方にネガティブな効果をもたらします。雇用主は危機感を持ち、職場における生活賃金格差に対処を始めるべきです。」と同氏は話します。
停滞する賃上げとマイノリティーが直面する賃金格差
一部の労働者は、経済や労働市場の情勢の変化により、立場がさらに不安定になり、経済的にも圧迫されています。データによると、十分な生活賃金を得ているのは、レジャー・ホスピタリティ産業の正規労働者の31%、小売業の36%、医療業界の46%と低い割合であることが分かりました。これらの業界は米国で急成長しているにも関わらず、生活賃金を得ている人は半数を下回る結果となりました。雇用主が初任給を設定する際の指針に使用するのは、最低賃金政策と市場競合他社の調査データですが、2009年以来、連邦最低賃金は時給7.25ドルにとどまっているとバグル氏は付け加えます。
この格差は、女性と有色人種の間でさらに顕著です。報告書によると、生活賃金を得ている割合は、男性(62%)が女性(50%)を上回ります。また、正規雇用のアフリカ系アメリカ人およびラテン系労働者の60%が生活賃金を得られていないのに対し、白人労働者ではその割合が32%にとどまります。「社会的偏見、不平等な労働市場政策、差別的な採用慣行などが、性別、人種、民族による生活賃金の所得格差を常態化させています」とバグル氏は説明します。
低賃金からくる不安感が会社の利益にも影響
生活賃金を得ている労働者は、経済的な安定を得る可能性が高い一方、生活賃金を得ていない労働者は、経済的に不安定なり、身体的、精神的健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。
前出のDayforceによる別の研究によると、年収5万ドル未満の労働者は、より高収入の労働者と比較して、自身の健康状態を「不良」または「非常に不良」と評価する可能性が高く、一般的な健康状態については3倍、精神的健康は 2.5倍、経済的健康は3.5倍の割合で、このような評価をする傾向が高くなることが分かっています。
この結果はいずれ、組織にも悪影響を及ぼします。経済的に不安定な労働者は、仕事への定着率や出席率、エンゲージメント、パフォーマンスにネガティブな影響をもたらす可能性があり、これが業務効率、生産性、会社の収益へのリスクをも高める可能性があります。
Dayforceのコーポレート・レスポンシビリティ・サステナビリティ担当であるジェイソン・ラーラン氏は、「社内の生活賃金格差を解消するために行う投資は、従業員にとって正しい選択であり、雇用主にとってもメリットがある賢明な判断です」と話します。
賃金格差解消のために雇用主が取れる手段
バグル氏によると、こうした問題に対し、雇用主が実際に取ることができる手段があると言います。「それはまず、『あなたの会社の従業員は、生活賃金を得ているか?』という問いかけをすることです。この質問に対する答えを明らかにすることで、雇用主は、自社の従業員の中で最もリスクにさらされている人々を特定し、どこから手を付けるべきかを判断できます。雇用主は生活賃金データを活用し、報酬と福利厚生のバランスを取ったり、賃金成長を予測したり、報酬に対するアプローチによる影響を追跡することで、さまざまな課題を見つけ、対処できます。」
バグル氏は、「賃金格差の解消は複雑な課題ではあるものの、その解決策はいたってシンプルで、他者に負けない十分な賃金と福利厚生を従業員に提供することです」と結論づけています。
注釈:
※1:生活賃金(Living wage):労働者とその家族が十分な生活水準を維持するために必要な賃金のこと。
参考記事:
Nearly Half of Full-Time Workers Aren't Making a Living Wage
執筆者:
Chihiro Bjork
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